第二十六話 旧五十嵐歯科医院を訪ねて
旧五十嵐歯科医院 (旧五十嵐邸)
開 館 時 間 午前9時30分から午後4時30分
(11月から翌年2月は午後4時まで)
入 館 料 無料
休 館 日 月曜日、祝日の翌平日、年末年始
(12月25日~1月5日)
所 在 地 静岡市清水区蒲原3-23-3
電話&FAX 054-385-2023
最 寄 駅 JR新蒲原駅(徒歩7分)
目 次
旧五十嵐邸の歴史ですが、江戸時代から明治時代には、宿場の街道沿いに「町家づくりの家」があり、大正3年(1914)頃、2階を診療室に改装し外観を洋風にし『歯科医院』を開業。大正7年(1918)頃には、西側に増築。さらに、昭和13~14年(1938~1939)頃に東側を増築し、昭和15~16年(1940~1941)頃には 2階奥の離れを増築したそうです。
平成10年(1998)には、蒲原町が土地を購入し、建物は五十嵐氏から寄贈を受け、平成12年~13年(2000~2001)に 建物耐震補強工事を実施しました。
昭和13年に増築する前には、建物入口はもっと左側にありました。「通り土間」という土間のある『町家(まちや)造り』という建物でした。当時、土間だった通路は、今では廊下に改造されております。
増築により明治、大正、昭和の建物が混在する『旧五十嵐邸』の建物の中に入ってみましょう。
大正時代に、電話番号『23番』だった電話が、今でも『054-385-2023』として使えます。さらに、大正時代の電話ボックスが、今でもそのまま利用でき、何とも言えないレトロな感じが残っております。その横には、一般の家庭では考えられない大きな金庫が、時々、仏壇と間違えられながらも、その存在を誇示しております。
明治時代からある『なかのま』と『ぶつま』の西側には、大正時代に増築された『家族の部屋』と呼んでいる部屋があります。『家族の部屋』と呼ぶには少し贅沢な部屋はいまだに色あせず、訪れる人を和ませてくれます。
部屋から見るお庭も普通の家とは違い、『旧五十嵐歯科医院』が繁盛していただけでなく、その趣味の良さが理解できます。
急な階段を2階に上ると、明治の元勲田中光顕伯爵専用の待合室が待っております。この田中伯爵は、幕末の土佐勤皇党に所属し、坂本龍馬や中岡慎太郎とも親しかったそうです。97歳まで生き、「明治維新から昭和維新まで政界の黒幕だった」との著書もあります。いずれにせよ、このような待合室を専用で使っていた人物には興味がありますが、今日はただ、専用待合室の見事さに感心いたしましょう。
さて、ガラス窓に囲まれた和洋折衷(せっちゅう)の診察室は、採光・換気が良く開放感にあふれています。音楽会をはじめとして、数々の催し物が行われるそうですが、レトロな雰囲気は最高の舞台であります。
ただ、歯の治療に使った道具だけは、大正時代に生まれなかったことを感謝いたしております。
この『旧五十嵐邸』は単なる歴史建造物ではなく、『NPO法人 旧五十嵐邸を考える会』のご努力によって、蒲原町民の生活の中に溶け込んでおります。どういうわけか、市民に親しまれる観光名所が予想外に少ない中、この『旧五十嵐邸』は今でも数々の催し物を行い、蒲原町民の皆様に親しまれております。
心が和む『旧五十嵐邸』へ是非、皆様もおいでください。
『旧五十嵐邸』を後にして、田中光顕伯爵の別荘『青山荘』に行ってきました。その後、秋田生まれのアシスタントと、清水らしい『清水魚市場 河岸の市』の食堂で『海鮮丼』を食べました。
ところで、五十嵐歯科医院の最も高貴な患者様ある田中光顕伯爵のことが気になります。そこで、田中光顕の書いた『最後の志士が語る 維新風雲回顧禄』を購入し、読んでみることになりました。
この本の裏表紙には、「遅れてきた尊攘志士田中光顕は、土佐を脱藩後、長州の高杉、伊藤らの庇護のもと、京坂を転々、新選組に狙われながら尊皇倒幕活動に邁進する。中岡慎太郎率いる陸援隊入隊、死後、同隊を後継する。王政復古に際し、錦旗を奉じ高野山に決起、維新の夜明けを迎える。幕末の動乱を生きた者だけが記録できた、維新史の一級史料。」と記載されておりました。
さて、静岡市清水区蒲原地区の『旧五十嵐歯科医院』のボランティア の皆様方には、あまりにも有名な田中光顕伯爵は、地元高知県ではほとんど知られていないそうであります。実は私も『旧五十嵐歯科医院』を訪れるまでは全く田中光顕伯爵のことは知らなかったのですが、この本を読んで急に詳しくなったような気がいたします。
維新後、田中光顕は、警視総監、学習院院長、宮内大臣などの要職を歴任、政界引退後は、維新烈士の顕彰に尽力し、志士たちの遺墨、遺品などを熱心に収集しました。それらは、常陽明治記念館、旧多摩聖蹟記念館、青山文庫にそれぞれ寄贈されました。なお、私は先日、だれも訪れそうにもない高知県佐川の青山(『あおやま』ではなく『せいざん』)文庫に行きました。