「先程の行啓門の先の所に上がってまいりましたけれども、富士山、展望の場所と。ここから上っていったところに樗牛さんの」
「お墓があります。これが槙柏の木(注)といって、神様が宿る木ということでパワースポットブームということなんですけれども、パワーが宿る木ということですから、樹齢1100年の槙柏という木です。」
(注)ヒノキ科のミヤマビャクシンの変種、盆栽界では最も人気の高い樹種のひとつ
「さあまた御堂が見えてきました。これ大明神と書かれていますね。」
「はい、これは七面大明神を祀っている七面堂といって子宝の神様として知られておりまして。」
「神様も一緒にいらっしゃるんですね。」
「そうですね。」
文豪、高山樗牛は境内を望む小高い場所に眠っていました。
「奥に石造りの記念品が出てきました。」
「高山樗牛の銅像が建てられていまして、これは彫刻家の朝倉文夫さんが設計して建てられた物でございます。ちょうど富士山を、樗牛先生が見ている状態で像が建てられていますね。」
「ちょっと正面ではなくて左の方をみていらっしゃるんですね。ちょうど目線の先に本堂があって、清水港があって、富士山が見えるという。」
「そしてその手前の、今は全部松原で江戸時代なんかはここから三保の松原、駿河湾、そして富士山というその構図ね、浮世絵の題材にもなっていますね。樗牛先生がここに眠っています。」
「大理石でしょうか。石造りで」
「ドイツのお墓の形式で建てられているとのことですね。」
「ドイツ文学ということで。」
「そうです。」
「そして恋塚というのあるそうですが」
「こちらでございます。」
「先程の歩道の横へ回り込んだところですね。」
「高山樗牛の代表作が『滝口入道』というね、歴史小説なんですけれども、その『滝口入道』と言う小説の中で、滝口時頼と曹子横笛というのが恋をするんですけれども、恋をするんだけれどもお亡くなりになっちゃうということで、恋塚というこの記念碑が建てられております。」
「はい、苔むした感じになっていますけれども、若いカップルもこちらにはおいでになるんでしょうか?」
「そうですね、こちらに手を合わせてる人もいますね。」
「かなうといいわけですね。」
その夜から横笛のことが忘れられない時頼は、恋しい自分の気持ちを横笛に伝えるべく、文を送ることにした。数多の男たちから求愛される横笛であったが、無骨ながら愛情溢れる時頼の文に心奪われ、愛を受け入れることに。しかし、時頼の父はこの身分違いの恋愛を許さなかった。傷ついた時頼は、横笛には伝えずに出家することを決意した。嵯峨の往生院に入り滝口入道と名乗り、横笛への未練を断ち切るために仏道修行に入った。
これを知った横笛は、時頼を探しにあちこちの寺を尋ね歩く。ある日の夕暮れ、嵯峨の地で、時頼の念誦の声を耳にする。時頼に会いたい一心の横笛だが、時頼は「会うは修行の妨げなり」と涙しながら帰した。滝口入道は、横笛にこれからも尋ねてこられては修行の妨げとなると、女人禁制の高野山静浄院へ居を移す。それを知った横笛は、悲しみのあまり病に伏せ亡くなった。横笛の死を聞いた滝口入道は、ますます仏道修行に励み、その後高野聖となった。