2.清水第五中学と羽衣の舞
(清水歴史探訪より)
一方、地元の清水第五中学校では、授業の一環として羽衣を取り上げ、『薪能』の上演を前に、同じ舞台で、子供能楽として成果を発表しています。本番を間近に控えた三年生を学校の体育館に訪ねました。
「気を付け!今から能の稽古を始めます。お願いします。」
「お願いします。」
指導に当たるのは、この学校の卒業生で、宝生(ほうしょう)流能楽師、シテ方として活躍している佐野登(のぼる)さんです。
【指導中…】
総仕上げに、佐野さんから、粋な贈り物です。
「では特別なことをやって、最後に総仕上げにします。私、今~君がやった仕舞(注)を私が舞います。皆さんはそれを謡って下さい。こんな大勢の中で舞うことが普段ないので皆座って」
(注)仕舞とは、 能の略式演奏の一。囃子(はやし)を伴わず、面も装束もつけず、シテ一人が紋服・袴(はかま)で、謡だけを伴奏に能の特定の一部分を舞うもの。なお、稽古の最後に仕舞を踊るので、『お仕舞い』という言葉ができたのでは??
【能が披露されている所・・・・・・】
仕舞で羽衣を舞う甲野太郎さん、素謡(スウタイ)で天女を謡う乙野花子さん、そして佐野登さんに伺いました。
(注)素謡(スウタイ)とは舞も囃子(はやし)もなく、謡(うたい)のみで演ぜられる演能形式のこと
「太郎さんは、能を実際に舞台で見たことはあるんですか?」
「いや、ないです。この五中の能の授業で佐野先生の舞を何度か見ました。すごく動くところが動くけども、動かない所はビシッとなっていて、でもあまり固くないという不思議な感じでした。」
「今度は自分が舞うわけなんですが」
「動き方が全部ゆっくりなので、とにかく止まっているのが難しくて。あと扇の持ちかえが特に難しかったです。やはりやるからには上手く踊れればな、と思ったので頑張ってみました。」
「最後に先生が、皆の謡いで舞ってくれましたけれどもどうでしたか?」
「やっぱり改めて違うなあ、すごいなと思いました。」
「さて、いよいよ明日本番ですけれども」
「とりあえず教えてもらったことが全部できればいいなと思います。頑張ってやりたいです。」
替わって、乙野さんに伺いました。
「やっぱり慣れていない所とか、昔の人であれば基本であった動作も私達は普段あまりそういうものと関わりがないのですごく難しかったです。私は最初恥ずかしくてほとんど声が出なくて、でもやはり、やることになったからにはちゃんとやろうと思って頑張りました。話の全体的な内容はこの地域ではよく伝わっているんですけれども、細かいこの時天女がどうやっているというのはあんまりわからなくて。そして舞を舞ってもらっている中で天女はこんな風にしているんだと、というのがわかりました。」
「最後に先生が皆の謡い(うたい)で舞ってくれましたがどうでしたか?」
「本当にすごいな、というのもありました。また、一つ一つがキチンとしていて、人としても見習いたいと思いました。」
「さあ、いよいよ明日本番ですけれども」
「やはり今まで習ったことも、謡い方も、人としてもちゃんとできるようにしたいと思います。」
最後に佐野先生に伺いました。
「大分よくなってきました。ただ、あの年代の子達ですから明日どうなるかわかりませんけれども、ただやかましいことを言う毎にですね、やる気が外に現れてくるので、非常にうれしく思います。非常に日常生活からは離れているものであったり、ただこの町の特にこの学校の生徒達にはですね、羽衣の松に日本で一番近い所で学んで生活をしている子達ですから、能がどうというよりも羽衣とこの芸能の関係、自分たちの住んでいる町と謡える関係。そんなものが意識の中でも繫がってきたのではないのかな、と思います。」
「佐野さんご自身もこの学校のご出身だと伺っておりますけれども。」
「自分も大変生意気な子供でしたし、でも自分が大人になる間にですね、やっぱりこれは良くなかったな、こうした方が良かったな、という話を今先回りをしながら話していますので、毎回毎回非常にやりがいがあるし、自分の中では大変楽しみにしている授業の場面です。いつも授業でも言うんですけれども、男の子はかっこよくなれよ、女の子は綺麗になれよ。すごく漠然とした言葉なんですけれども、実はその中には卑怯なことするなよ、ズルするなよ、自分の考えしっかり持てよ、後悔しない様にしろよ、やる気を出せよ、そんなことも一緒にしながら子供達にメッセージを送っています。」
「授業の最後に子供達の謡で舞われましたけどもどんなお気持ちだったでしょう?」
「百人以上の地謡(じうたい)で舞うということは普段ないですし、ずっと1年生から見てきた生徒達だったので、私自身も考え深いものがありました。」
(注)地謡(じうたい)とは、コーラスで謡うこと。
「いよいよ明日本番ですけれども、子供達にはどんな舞台を期待していますか?」
「あとはもう教えることは教えましたので、成功することをただただ祈っております。終えた舞台の後にはですね、是非今度は今まで言わなかった言葉を伝えようと思います。」
「その言葉はどんな言葉なんでしょう?」
「今まで私は褒めないできましたので、もし明日うまくいけば、きちっと褒めてあげたいなと思っております。」