1.なまこ壁の家を訪ねて
(清水歴史探訪より)
蒲原、由比、興津、そして江尻から府中へ、清水歴史探訪、
毎月第二土曜日のこの時間は、清水区内、各地に残された歴史の香りを訪ねます。
今回は新蒲原駅から少し西に歩いてきました。平屋建てにしてはやや大きな変わった建物を見つけてお邪魔することにしました。
「こんにちは」
「どうぞー」
「蒲原宿まちなみの会の吉田ふみ子さんに伺います。よろしくお願い致します。」
「よろしくお願いします」
「さていま、大きなですね、お宅の入(はい)り口のすぐたたき(注)の所で掛けさせて頂いてるんですけれども、どんなことをなさっていたお宅なんですか」
「和菓子屋さんですね。裏で作ってここで商売をやっていたんですよ」
(注)たたきとは土の土間のことです。吉田さんの家は、コンクリートですが、パーソナリティーがたたきと呼んでいました。
「いつごろのことなんですか」
「この家が建ったのが明治20年くらいですね。お菓子の許可証が明治20年に頂いたのがあるんです。その頃からやってたんじゃないかな、と」
「じゃあ100年前後と…」
「やってたのは昭和50年ぐらいまでですね。和菓子の他におせんべいも焼いてたし、飴もやってたし、飴菓子は静岡県指定工場になっていましたから、かなり広くやっていたんじゃないかな、と思います。私も作りましたよ。」
「そうなんですか。そしてこちらがそのお店なんですけれども、この店の間(みせのま)の作りなんですけれども、ちょうど入りますと土間があって、土間がちょうどローマ字のL字型(注)になって奥に伸びていって、土間に沿って部屋ができているわけなんですけれども、売っている場所とはどのあたりに?」
(注2)鍵型通り土間というのが正式名称とのことです。
「この辺あたりらしいですね」
「ちょうど正面入ってすぐの部屋ですね」
「敷居が一段下がっているんですよ」
「次の間の敷居よりも一段下がっていて…」
「柱がなくってこれが店の間(みせのま)なんですよ」
「ちょうど、ここの所がお店になっているというわけなんですね。今は、コンクリートになっていますけど、当然当時は土でできてたわけなんですね。」
「通り土間に沿って、部屋がこう続いてるのが『町家造り』というんですよ
「奥の方まで伸びているという造り方ということですね」
「はい、また土間もずっと続いているんです。昔はみんなそうだったんですけど、昔は通路でしたから、こっちの人が向こうの通りに行く時に通るわけですね。一般のお客さんではなく、近所の方が向こうへ行く時には通してもらうという。買い物する時も通してもらう。」
「土間が路地の代わりをしていたのですか。家の中だというのに」
「そうです。食事していようがなんだろうが、どんどん入ってきて、そこで立ってて話をするという」
「昔は、もうご近所さんが、開けっぴろげの状態で」
「私もちょっと勤めたことありますけど、鍵を掛けたことはないですね」
「柱も太いですね…」
「これは皆さんいいなぁ、ってよく言うけど」
「普通のお宅の柱の4倍ぐらい・・・いやそれ以上ありそうですよね。これがドーンとあるために、ちょうど他の店の部分の柱がなくても大丈夫な…」
「そうですね。だからこの造りは、ほとんどその当時の明治に建てたまま。ここも、ここも。障子はなかったですね」
「ちょうど、店の間(みせのま)の所には、障子というか、敷居そのものが、ないですね」
「ここのお隣のちょっと一段高くなったお部屋も、今は、敷居がちゃんとできていますけれども」
「これは削って、上は板を打ち付けて敷居をつくって、後からやったんですね。」
「昔は、ここにもなにもなく…すべて素通しで、この土間を通る人からは、丸見えで…それが、普通の状態であったわけなんですね」
かつてお菓子屋さんを営んでいた吉田さんの住宅は、広い店の間(みせのま)と呼ばれる部分から続く、通り土間が、ご近所の交通路ともなっていました。
まさに、みんなが、家族のように暮らしていた時代のなごりなのです。
そして、私の目をひいた外観がこの建物の大きな特徴です。
「もうひとつ、外側に特徴があるんですね。」
「そうですね、『なまこ壁』ですね。住居として『なまこ壁』を使っている家(うち)はもうほとんどないんじゃないかな。この向かいにある一軒と家(うち)と、この宿場で二軒だけ、蔵に使っている家はあるんですよ。」
『登録有形文化財』の証明
よく見ると、文化庁が作成したようです。
「あの『なまこ壁』というとどんな壁なんですか?」
「『なまこ壁』は、方形の瓦を釘でとめて、そのつなぎ目を漆喰で盛り上げるんですよね。蒲鉾(かまぼこ)みたいに。それがなまこに似ているということで、『なまこ壁』というらしいですよ。」
「ああ、そうですか。なまこからきたんですか。」
「ええ、そうです。」
「よくある時代劇なんかを見ると」
「でてきますよね。」
「ちょうど斜めに白い線が入っていて、交差していて、その交差した中が、四角になっていて、そういう壁ですね」
「今、こういうのをやる左官屋さんが、あまりないんですよね」
「昔ながらの修理ができる職人さんが、今はいないってことですか」
その『なまこ壁』は街道に面したところにあって、近くに寄って観察することができます。
「ちょうど今、玄関を出てなまこ壁を見ているのですが、盛り上がっていて、下はこの黒い形」
「これが瓦なんですよ。黒ばっかりじゃ面白くないから、じゃあ白いので、模様にしようと。」
「ええ、黒い瓦の四角いのを、ちょうど、菱形になるように置いて、その角の頂点の部分の四隅を止めて-----。」
「そのつなぎ目、瓦と瓦のつなぎ目から水が入っちゃうから、漆喰で固めて-----。」
「で、それをわざわざ盛り上げて、これが、『なまこ』の形に------。」
「似ていると。ガイドの人が目の不自由な方を連れてきたそうで、その時『なまこ壁ってこういうのだから触ってごらん』と言って、触らせたら、目の不自由な方は『わかったわかった』といってすごく喜んでいたと。」
「これは、もう昔ながらの漆喰でつくられた?・・・」
「いえ、これ一回、直しているんですね。」
「そういう装飾が、色々施されていたということは、蒲原宿の中では、大きなお宅となるんでしょうか?」
「そうですね、こういう家って、本当にないんですよね。壁なんかは、30㎝ぐらいありますからね。『塗り家造り』といって、塗り壁なんだけれども、土壁で、中が竹で組んだものが、あるんです。『木舞(こまい)』と言っております。ただ土だけだと、落ちてしまうから、その『木舞(こまい)』という竹の格子みたいな所へ、土を張るんですよ。」
「竹を芯にして・・厚さ30㎝というのは、すごい厚さですね。」
「だから火事に強い。水に弱いけど、火事には強いんですよ。」
「土壁の家って、どうですか?」
「夏は涼しいですが、冬も暖かいと思います。蔵に入ると暖かいからね。でも、うちみたいに、土間があると、風通しがいいから、寒いです。」
「これが、昔ながらのお宅という-------」