「二階のお部屋にご案内します。どうぞ。」
・・・階段を上がる音・・・
「どうぞ。」
「ずっと板張りの、あっ・・・」
・・・板がきしむ音・・・
「賑やか(にぎやか)ですね」
「これも、この坐漁荘の大きな特徴の1つでして、ここがうぐいす張りの廊下になっています。このキュッキュ鳴る音というのは、下の部屋にいても分かります。ですから、下にいて『誰かいるなぁ』というのが感じとれる、セキュリティー対策で作られたというのが大きな理由じゃないかと思いますね。」
「はい。忍んで歩くことができないわけですね。」
「そうですね。ある時、それをやってみようということで、そろーり歩いてみたりとか、あるいは端を歩いてみたりとか、意識的に音を出さないようにしてこの廊下を渡ろうという試みがありました。しかし、どんな方法で歩いてもやっぱり音が出たというぐらいに、セキュリティー対策を十分に考えたうぐいす張りの廊下と言われています。」
「この廊下を通り抜けますと、今度はどちらになるんでしょうか。」
「こちらが2階の居間、和室です。ここで『次の総理大臣を誰にしようか』、というようなことも含めて重要な会議が行われた部屋だと思われます。」
「床の間もあったりして、造りも立派ですね」
「そのとおりですね。京都風の数寄屋造りの典型的な造り方をしていると思います。」
「この外側の廊下の部分からも、外の眺めが非常にいいですね。」
「そうですね、上から見下ろす清見潟(きよみがた)の風景、本当に昔の景色が惜しまれますけれども、今でもですね、若干、海の雰囲気を見ることができます。右の方からずーっと、三保の半島が見えますね。それから、右手の奥には、日本平の山も見えます。目を転じて左の方にいきますと、木々の間から晴れた日には伊豆の山も見える。そういうロケーションですね。」
「いくつかのガラスがゆがんでいるように見えるんですが。」
「この家は復元するときに、できるだけ忠実に復元しようとして努力されました。その1つが、やはりこのガラスではないかと思います。なかなか調達することができなかったんですけれども、色んな古いお家に声掛けさせていただいて、『もしこういうガラスをお持ちだったら、復元するときに供出していただけないか』と声をかけました。そうしましたら、数軒のお家から『こういうガラスを持っているよ』ということで、快く復元のために供出していただいた、そういうガラスです。気持ちも込められていると思います。」