旧五十嵐邸の『店の間』には、他の町家(まちや)にはない特徴があります。ガラスに『23番』と書かれた扉です。
「ドアのようなものがあって。」
「電話室ですね。」
「はい。お部屋の中に電話ボックス、という。」
「そう、だから当時は、電話がひかれている家が少なかったから、『貸してください』とか、お呼び出しをしたりとか、こういう電話ボックスみたいなものを使ったのかな、と。患者さんもたぶん使ったでしょうからね。」
「ちょうど人一人が入ったら、いっぱい、いっぱいぐらいですね。」
「そうですね。」
「今も電話機があって、電話室として現役なんですね。」
「そうです、通じますしね。」
「いろいろ壁にメモ書きがされてますが。」
「そうですね、当時の生活様式が分かりますよね。だから補修のときも、板を全部外しといて、それから中の補修をして、またもう一回これをそのまま戻してます。この蒲原地区で電話がひかれたのが、大正8年なんですよ。『25本ないと電話業務が開始されないよ』、ということで町の人から募集して、この家で23番目に申し込んだんですね。それで、あとの2本は役場のほうで引き受けたというようなことを聞いていますけれど、それで、初めて大正8年に電話業務が開始されました。それで、これ今『23番』となっていますけれど、今、これ2000番がつきます。2023番でこの五十嵐邸へ通じます。」
「23番という数字は今も生きているんですね。」
「今も生きています。」
「店の間、中の間、仏間といきますね。ここにあるのは、金庫ですね。この家は、お金はもちろんなんですけど、治療に使った金(きん)なんかも入れてたようです。」
「金歯の金というのは、貴金属なわけですね。」
「そうそう、だからそんな大事なものは、ここへ入れてたみたいですね。」
「はい。立派な金庫ですね」
「そうですね。」