4.『追分羊かん』の由来
(清水歴史探訪より)
府川充宏さんが15代目として切り盛りする『追分羊かん』にも、困難だった昔の旅にまつわる物語が伝えられています。
「私の一番最初の先祖が、箱根の山を通っている時ですね。その時に『旅に病(や)める明(みん)の僧に出会いて』というから、今の中国から来たお坊さんが、江戸時代の初期とはいえ、いらっしゃったんでしょうね。
そして、そのお坊さんが『旅に病める』だから、旅行中に、お腹が痛くなったか、頭が痛くなったか、コンディションが悪くなった。その『旅に病める明(みん)の僧を心温かく介抱。
やがて病が癒えた僧は、感謝の涙と共に、小豆の羮(あつもの)づくりの秘法を教えた。』とありますから、お礼で作り方というのを教えて頂いたと伝えられております。」
「今、他(ほか)の所で売っているいろんな種類の羊羹(ようかん)がありますけれども、この『追分羊かん』の羊羹(ようかん)とは、ちょっと違いますね。」
「うちのは『蒸し羊羹(ようかん)』と言いまして、竹の皮に餡(あん)をくるんでから、蒸す。そういう作りなんですね。今はほとんどの所が、『煉り羊羹』ですけれども、僕の所のは、その前のもっと昔の作り方です。」
「ええ~、包んであるのは、色んなパッケージがありますけれども、これらも昔ながらの物なんですか?」
「そうです。竹の皮で(包んでありま)す。(昔は)、例えば、銀紙の薄いのとか、そんな物は無いわけですから。他になかったんでしょうね、包む物が。」
「では、これは当時の作り方がそのまま伝わっているわけですか?」
「そうですね、その味なんだけれど、今の方がよっぽどおいしいと思います。材料が良いから。」
「製造はこのお店の所で、していらっしゃるんですか?」
「はい、屋敷内で手作業で行っております。なかなか、手間がかかります。」
「これは作るのにどのぐらい手間がかかるんですか?」
「そうですね、餡(あん)を作る為に小豆(あずき)をぐつぐつ煮て、餡(あん)を取ります。そして、竹の皮を、水に浸して、それを丁寧に洗い、先ほど取った餡(あん)を竹皮に包みます。次に、竹皮のはじから取ったさきひもを、くるくる縛ります。一本ずつ手作業で行いますから、すごく手間が掛ります。」
「そして、その手間が掛る竹の皮を、今までずっと使い続けているという最大の理由はどういった理由(わけ)なんでしょう?」
「まず、竹の皮を使い続けているというのは、これが先祖から伝えられている物だからです。
例えば、お客さんが、『あら珍しい。竹の皮に包んであるわ。この竹の皮を剝いで食べましょう。』と言って、羊かんの竹の皮を剝いで、餡子(あんこ)の部分だけを、包丁でもってトントンと切って食べるとしましょう。そうすると、その餡(あん)に指の指紋なんかが付いたりして、ペチャペチャしてあんまり良くないわけです。
(『追分羊かん』の正しい食べ方は、)竹の皮の上から切って、それぞれの人が剥きながら食べるのです。そうすると、その瞬間にほんのほのかに『竹の香り』がして、ああやっぱり自然の物っていいなと感じるわけであります。
そういうわけで、苦労して竹の皮を集めて、竹の皮を綺麗に洗って使っています。」